転倒予防のチェックリストは、どれも10項目くらいあります。
段差をなくす。手すりをつける。床にものを置かない。敷物を固定する。コードをまとめる。足元灯をつける。
どれも正しいです。ただ、全部やるのは現実的ではありません。
手すりの設置も段差の解消も、お金と工事が必要です。そして——本人に「邪魔だ」と断られることがあります。
この記事で伝えたいこと
・訪問で見てきて、いちばん多かったのは「何もない」状態でした
・⚠️ 手すりは「邪魔」と言われます。通り道につけるからです
・だから優先順位をつけて、1つずつ
・本人が納得していないものは、使われません
⚠️ すでに転倒を繰り返している方、歩行が不安定な方は、自己判断で進めず、主治医やケアマネジャー、担当の理学療法士にご相談ください。
訪問で見てきて、いちばん多かったこと
利用者さんのお宅にうかがって、まず家の中を見ます。どこを通るか。どこで立ち座りするか。
いちばん多かったのは、「何もない」状態でした。
・杖がない(あっても使っていない)
・歩行器がない(または体に合っていない)
・手すりがない(壁や家具を支えにして移動している)
つまり、支えるものが何もない状態で歩いているということです。
床のものを片付けるとか、コードをまとめるとか——そういう話の前の段階でした。
まず「つかまるもの」があるか。これが出発点です。
⚠️ 手すりは「邪魔」と言われます
「手すりをつけましょう」と提案して、断られたことが何度もあります。
理由は2つでした
① ご家族が必要性を感じていない
「まだそこまでじゃない」「本人は歩けているから」
② 本人が「導線上にあって邪魔」と言う
これは、もっともな意見です
なぜ邪魔になるのか
手すりは、通り道につけるものだからです。
廊下、玄関、トイレの前、ベッドのわき。よく通る場所だからこそ、つける意味があります。
そしてよく通る場所だからこそ、邪魔になります。ぶつかる。物が置けなくなる。見た目が変わる。
⚠️ 「邪魔だ」という感覚は、間違っていません。事実そうなのです。
だから、場所を絞ります
家じゅうに手すりをつける必要はありません。いちばん危ない1箇所から始めれば十分です。
どこから手をつけるか(優先順位)
順番に見てください。上から順に優先度が高いと考えています。
① 立ち座りする場所
転ぶのは「歩いているとき」だけではありません。
立ち上がる瞬間、座る瞬間——ここでふらつく方は多いです。
・トイレ(立ち上がる/ズボンを上げる動作がある)
・ベッドのわき(起き上がって立つ)
・椅子・ソファ(低いほど立ちにくい)
・玄関(靴を履くために座る・立つ)
まずここに、つかまるものを用意できないかを考えてください。
② 夜に通る場所
夜中にトイレへ行く道。ここは危険が重なります。
・暗い
・寝起きで、体が目覚めていない
・急いでいる(間に合わないと思っている)
・裸足か、靴下のまま
⚠️ ここは、お金をかけずに改善できる部分があります。足元灯を置く。通り道のものをどける。夜だけでも電気をつけておく。
③ 段差があるところ
玄関のあがりかまち。敷居。浴室の出入り口。
段差そのものをなくすのは工事が必要ですが、「そこで必ずつかまる」場所を作るだけでも違います。
④ 床にあるもの
新聞、コード、カバン、めくれたマット。
これは最後でいいと思っています。片付けても、また置かれるからです。
⚠️ ただしめくれた敷物だけは、早めに対処してください。つま先が引っかかります。固定するか、思い切って外すか。
本人が納得していないものは、使われません
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
提案して、設置してもらったことがあります。手すり、歩行器の変更、床の滑り止めマット。
一方で、本人やご家族が納得されず、設置に至らなかったこともあります。そのときは、しばらく様子を見るという判断をしました。
なぜ納得が要るのか
使わなければ、ないのと同じだからです。
つけた手すりを使わない。買った歩行器を部屋の隅に置いている。そうなると、お金と工事が無駄になるだけでなく、「言っても無駄だ」という空気が家の中に残ります。
説得するより、納得してもらうほうが早いです。
納得してもらうために
・「転ぶから」ではなく「楽になるから」と伝える
転倒の話は、本人にとって気分のいい話ではありません
・1箇所だけ試してもらう
いきなり家じゅうに提案すると、拒否されます
・本人に場所を選んでもらう
「どこにあったら助かりますか」と聞く
・⚠️ 断られたら、いったん引く
押し切っても使われません。時期を待つほうがいいこともあります
専門職に見てもらう方法があります
「どこが危ないか分からない」という場合、専門職に家を見てもらうことができます。
・ケアマネジャーに相談する(担当がいる場合)
・訪問リハビリを利用する(理学療法士・作業療法士が家に来ます)
・地域包括支援センターに相談する(担当がいない場合の窓口)
その人の動き方を見て、「この人はここで転ぶ」という場所を、具体的に指摘できます。チェックリストを眺めるより、はるかに早いです。
介護保険が使える場合があります
要介護・要支援の認定を受けている方は、住宅改修費の支給を受けられることがあります。
対象になるのは、手すりの取り付け/段差の解消/滑りにくい床材への変更/引き戸への取り替えなど
⚠️ 上限や自己負担の割合、申請の手順は、必ずケアマネジャーや市区町村の窓口でご確認ください。
🔸 工事の前に申請が必要です。先に工事をしてしまうと対象外になることがあります。
よくある質問(Q&A)
Q1. まだ元気なのですが、早すぎませんか?
A. 早いほうが受け入れられやすいです。転んでから、あるいは歩けなくなってから手すりをつけると、「自分は衰えた」という感覚につながることがあります。⚠️ 元気なうちに「あると便利だね」で入れておくほうが、心理的な抵抗が少ないです。
Q2. 手すりをつけると、かえって筋力が落ちませんか?
A. 転んで骨折するほうが、はるかに筋力を失います。入院すれば、数週間で歩けなくなることがあります。手すりは「支えるもの」であって、「代わりに歩いてくれるもの」ではありません。⚠️ 使いながら体を動かすことが大事です。
Q3. 本人が「まだ大丈夫」と言います。
A. よくあることです。押し切っても使われません。「転ぶから」ではなく「楽になるから」と伝え方を変えてみてください。それでも難しければ、いったん引いて時期を待つという選択もあります。⚠️ ただしすでに転倒を繰り返している場合は、早めに専門職へご相談ください。
Q4. 賃貸なので工事ができません。
A. 工事不要の手すり(突っ張り式・置き型)があります。介護用品のレンタル対象になるものもあるので、ケアマネジャーに相談してみてください。
Q5. 何から買えばいいですか?
A. 買う前に、見てもらってください。その方の体の状態によって、必要なものはまったく違います。歩行器ひとつとっても種類があり、合わないものを使うとかえって危険です。ケアマネジャーか訪問リハビリに相談するのが先です。
まとめ
・訪問で多かったのは「つかまるものが何もない」状態
・⚠️ 手すりは「邪魔」と言われる。通り道につけるから
・だから場所を絞る。家じゅうは要らない
・優先順位は①立ち座りする場所 ②夜に通る場所 ③段差 ④床のもの
・本人が納得していないものは、使われない
・「転ぶから」ではなく「楽になるから」と伝える
・迷ったらケアマネジャー・訪問リハビリ・地域包括支援センターへ
全部はできません。
まず1箇所。いちばん危ないと思うところから始めてください。
⚠️ すでに転倒を繰り返している、歩行が不安定——こうした場合は、必ず主治医や担当の専門職にご相談ください。

